目覚めた時はベッドの上だった。
不思議と痛みはなかった。が、
「…やっぱり、ないか」
左腕の感覚がない事に全て現実なのだと理解した。
「やあ、目が覚めたようだね」
隣の部屋から現れた男は、金色の瞳が印象的で。
「貴方は…?」
「君を助けた者さ。何、君がユグドでどういった目に遭ったのかは理解しているよ」
「な…!!」
「本来ならばわざわざ干渉する筋合いでもないんだけど、まあちょっとこちらにも都合があってね」
「都合…?」
言っている事の意味が判らない。
取り敢えず助けてくれたのは利害が一致したからであるらしい。
「そう。君はこれから出現する一人の英雄の姿を最初に目撃する男となる」
「えい…ゆう?」
「ああ。まさしく英雄さ」
「な…ぜ…」
「何故?それは愚問さ」
と、男はにやりと口許を歪めた。
「君は傍観者として神獣の一人に選ばれたのだからね」
事ここに至り、目の前に居る人物が『人間』ではないのだと理解した。
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サラヴァラックの武神
第十六話
「それで、一体これは何なんですか?」
俺が皆を連れ出したのは、近くの川。
ディールさんがかつて大怪我を負って流されて来た場所だそうだ。
その所為か、ディールさんの表情が少し硬い。
「ま、順を追って説明しますよ。まずその三つのアイテムは、ヴァンヴレイスの追加武装です」
「追加武装とな?」
「ええ。それぞれ精霊を詰め込んでありますので、ね」
先ずは、最初に聞かれた板だ。
「これはバン・プレート。衝突と爆発と粉砕と炸裂を司る精霊を込めてあります。…これを拳の先に填め込んで…と」
かきり、と金属音がして、握られた拳とバン・プレートがしっかりと噛み合う。
「ではそれを手頃な岩に叩きつけてみて下さい。…ああ、俺達はちょっと離れていましょう」
ぞろぞろと下がる、ギャラリー。
「ふっ!!」
それを確認して、ディールさんが近くの岩に拳を叩き込む。
音は無かった。
閃光と爆風が辺りを白く染め上げ、それが晴れた時には。
ディールさんが突き出した拳の先。そこには何も無くなっていた。
「こ、これは…」
「一撃の破壊力を引き出したい時にはこれです。ただし、本当に尋常じゃない破壊力を叩き出しますので、御使用には細心の注意が必要ですが」
「き、危険すぎません?」
「一応イグニート・ヴァンヴレイスに接続しない限りはただの板です。ご心配なく。問題は使う時に味方を巻き込まないようにって事です」
「だから追加武装なのですわね?」
「ええ。街中でぶっ放したらそれだけであの街の二割は最低でも壊滅しますから」
「それは…」
青くなるディールさん。
「じゃ、次のはこれを見せておくれよ」
ガルムさんは嬉々としている。
「ではこれ」
「これは…?」
どうやらディールさんは他のものもバン・プレートほど危険なのではないかと危惧しているようだ。
「ヘビーパーツです。バン・プレートとの併用も可ですが…まあ取り敢えずはその能力をお見せしましょう」
バン・プレートを外し、腕の部位にパーツを填め込んでいく。
「この意匠は無駄にされたモノではなかったのだな…?」
「ええ。武装追加用につけた部分もいくつかあるんです」
「それにしては見事よなぁ…」
「それで、これは?」
「簡単に言えば、力持ちになります。活力を司る精霊を込めてありますので、体力自体も向上している筈ですよ」
「えーと…」
「じゃ…」
論より証拠だ。
手近な岩―無論、人間には間違っても持ち上げられない程の重さ―を持ち上げ、渡す。
「ほい」
「はい…ってええっ!?」
普通にそれを手に取り、愕然とするディールさん。
「力仕事にでも使ってくださいね」
「…は、はい」
それを脇に下ろし、青ざめた顔で頷く。
「で、ではこれは…?」
そして最後に提示されたのは、掌に乗る程度の一粒の金属塊。
「ああ、それは切り札です」
「き、切り札?」
「そ、切り札」
「効果は?」
「内緒です」
聞いてきたガルムさんを切って落とす。
「も、もしかして漢の浪漫じば…」
「ああ、自爆なんてオチじゃないですから」
めげないガルムさんにカウンターパンチ。
「はうぅ…」
「…とは言え、ディールさんにお教えしない訳には行きませんね」
耳元に口を寄せ、小声で効果を教える。
「…本当ですか?」
「ええ」
「…それって相当凄くないですか?」
「だから切り札なんですよ」
ディールさんは冷や汗とも脂汗とも取れる汗をだらだらと流している。
「取り敢えずこの三つがあれば、ダークエルフとも互角に戦えますよ」
「…でしょうねぇ」
呆れ顔で、というより思いっきり呆れた様子のディールさん。
「して、ヴァルよ。わらわ達のこのアクセサリーにも精霊は居るのかの?」
「ええ。ヘビーパーツと同じで『活力』の精霊が。こちらは美貌が長持ちしますよ」
「おお!!」
「まあ」
喜色を現すお二人。
「取り敢えずこんな感じです。じゃ、戻りましょうか」
「ぬう…気になるなぁ」
ガルムさんは帰るまでずっとそう呟いていた。
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夜。
工房で明日の作業の準備をしていると。
―なぁ、ヴァル。
サラヴが声をかけてきた。
「何さ?」
―ディールに少々甘すぎるのではないか?
「…ああ、まあね」
確かに少々気を入れて作り過ぎたとも思う。
―どれもこれも神器と言って遜色ないような逸品揃いではないか。
「彼は抑止力だからね」
―抑止力だと?…誰のだ。
「俺の」
―お前の?
「俺は『あのエルフ』から親父とお袋の尊厳と誇りを取り返す。だが奴の精霊は俺の精神すら壊すかも知れない」
―む。
「その時、お前を持った俺にも勝ち得る相手ってなるとな」
―成る程。それだけあ奴を買っているのだな?
「竜を単独で狩ったダークエルフも前代未聞なら、ダークエルフを生身で打ち倒した人間ってのも前代未聞だろうさ」
―ふむ、確かに。
そう。俺は確かに強くなったかもしれない。
だけど、だからこそ。
ア・ミスレイルで生まれたダークエルフとして恥ずかしくない生き方をしたい。
「まあ、簡単に壊されるような精神はしていないつもりだけどね」
―心配するな。俺がついている限り、お前に敗北はない。
「そうだな…」
そんな励ましの言葉が、なんとなくとても嬉しかった。
続きます
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上記テキストは 2004年7月28日滑稽さま に頂きました。
ありがとうございます。
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