エリュズニールの騎士・外伝外伝〜おまけ〜
                                             

『風の中で獣は育つ
 風の中で獣は駆け
 風の中で獣は眠る
 風はやむ事は無い
 時に激しく時に優しく
 風をまとい、獣は吠える
 その牙を煌めかせて』
        〜狼と風の詩(作者不明)〜より


後日談

あの事件からすでに1週間が過ぎた。
喫茶エリュズニル、AM4:30。
一階の片隅のテーブルに、一組の男女が座っていた。
そのテーブルに乗っているろうそくの明かりに照らされ、青い髪のエルフがコーヒー
を差し出す。この店の店主だ。
「少し遅れたね。」
「さすがにバラバラだ・・・再生するのに時間がかかった・・・・」
それを聞いて、女がにやりと笑う。
「しかし、キミがねぇ・・・めずらしいじゃないか♪」
「・・・・茶化すな・・・・・・・」
「だってそうだろう?・・・いくらあの事に触れられたからって油断しすぎ・・・」
「記憶は・・・・取り戻したぞ・・・」
ぴたりと女の話が止まる。
「そもそも・・・どうやって記憶をなくしたのかまではっきりとな・・・・」
たらたらと女の顔に汗が浮かんでくる。
「確か300年前・・・・お前が何かの呪文の失敗で・・・・大爆発を起こして・・
・・それをかばったショックで・・・・・・・・」
「ま、まぁまぁ・・・別に良いじゃないか取り戻せたなら・・・」
「・・・・昔の私ならばただでは済まさなかったが・・300年も別人をしている
と、どうやら温厚になったようだ・・・」
そういって、コーヒーをちびちび飲む。
「そうかい?・・なら安心だ。」
女はまたもとのニコニコ顔に戻って椅子に座りなおした。
「でも、ま・・感謝してるよ。キミがあの時かばってくれなきゃ僕は消し飛んじゃっ
てたかもしれないし・・・」
けらけらと女が笑う。
「・・・・気にするな・・・私はそのために存在している・・・・」
「・・え?」
「・・・・・・・・・私の仕事はお前を護る事・・・・そのために死ぬとしても何ら
問題は無い・・・・・・」
女は少し複雑そうな顔をしていたが、やがてにこりと笑った。
「そっか・・・・僕を護る為・・・か」
男はちらり窓の外を見上げた。
月が輝いている。
「しかし、キミに護らせるなんて・・・・やっぱ僕が可愛かったからかな?」
女が自尊心たっぷりの笑みを浮かべる。
「ま・・・・どんな子も生まれた当時は可愛いものだ。」
「そうだよね♪・・・・って、どういう意味ぃ?」
男が口元をゆがめた。
「フッフッフッ・・・・冗談だ・・・」
きょとん、とする女。
「・・・・キミ・・・・・・笑えたの?しかも冗談なんか・・・・」
「ま・・・・300年は長かったからな・・・・・・特に1週間前などは非情に心地
よかった・・・・・」
「・・・・・変わったね。」
女はふぅ・・と息を吐き、男の顔を眺めて笑っている。
が、やがてテーブルに立てかけてある白いものに目をとめた。
「そういえば・・・・その剣ディールに持たせたよね?」
「ああ・・・・・」
少し顔が曇る
「人間に持たせて平気だったの?」
「大丈夫だろ・・・・少し生気を吸われるだけだ・・・」
「やっぱり・・・人間の骨と鋼を混ぜて造ったのはまずかったんじゃない?妖刀だろ
?」
「・・・・・・・・・昔の・・・恩人の村人達の骨だ・・・・・」
こんどはズズッと音を立ててコーヒーを飲んだ。
「あの頃の私は・・・・なくした心の隙間を埋めようと必死だった・・・・・・・
失った記憶を・・・・探していたのだろうな・・・・・」
しばし沈黙。
はかない灯に照らされた室内に、ただ男のすするコーヒーの音だけが静かに漂ってい
た。

ふと女が顔をあげた。
「そう言えば知ってるかい?フィーナ達、人間と亜人の仲を取り持つための組織にな
るそうだよ。」
そこまで言うと、何か鬱な事を思い出したらしく顔を曇らせた。
「・・・サイガがいてくれたら・・・良かったのにな・・・・」
顔を上げ、窓の外の月を見上げる。
男は無言のままコーヒーをまたちびちび飲み、
「・・・・北の古砦を根城にしていた盗掘団が壊滅した・・・・・」
「?・・なんだい?いきなり別の話かい?」
「それを壊滅させたのは一人の旅人らしい・・・・」
「それで?」
「その男のあまりの異様な格好にあるあだ名がついた・・・」
「どんな?」
「・・・・“鉄色の大巨人”・・・」
女が男のほうを向いた。
「それって、ひょっとして!!・・・・」
「・・・・・・さぁな・・・・」
コト、と男が空のコーヒーカップをテーブルに置いた。
「さて・・・・」
「もう行くのかい?」
「ああ・・・・久しぶりに、竜の兄弟どもにも会いに行くことにした。」
「ねぇ・・・・次はいつ会いに来てくれるんだい?」
「・・・・・この風が・・・・・吹きぬけた頃・・・・・」
ヒュゥッ・・・・・
男は玄関のとってに手をかけた。

「そういえば・・・ディールのこと・・・・」
「ん?彼がどうした?」
「・・・・・胃・・・・・・診てやれ・・・」
「え?胃?胃がどうしたって・・・あっ、コラ・・ちょっと待ちなよ!!」

もう外の雪はすっかり溶け、変わりに深い霧が立ち込めている。

今年も春がやってきた。



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上記テキストは 2005年04月03日ムサシさま に頂きました。
ありがとうございます。
雨傘日傘