エリュズニールの騎士・外伝〜白い雪と黒い風〜
                                               第七話

午前0時12分、三階の端。
ズドォォォォォン!!
すさまじい爆音と共に建物が大きく揺れる。
「・・・・ちっ、もうサイガの“大筒”が出たのか・・・俺も急いだ方がいいな・
・」
そこには、グレーという名の男が二人にらみ合っている。
もちろん、鏡などではない。
「001よ、何をそんなに急いでいるんだ?どうせ貴様らには何も出来んというのに
・・・」
「へっ、俺のクローンの分際で生意気な事抜かすなよ・・・・」
「クローンではない・・・改良型だ!」
刹那、
ギャギャギャギャ・・・・・
床を抉りながら、二人のグレーがぶつかる。
右足上段蹴り、それを右の掌で受け止めてそのまま右ひじ、さらには虚を突いての後
ろ回し蹴りまで、そっくり同じ動きをする。が、
ズドン!
「ぐぅっ!」
灰色の胴着を着た“ルシファー”のグレーが壁に叩きつけられる。
「馬鹿が・・・俺は改良型。お前のような試作品より俺のほうが能力は上に造られて
いるのがまだ分からんのか?」
「じゃかぁしい・・・・テメェが本当に俺なら・・・“造られている”なんて抜かす
か!」
ガツン!
またも電光石火の如くぶつかり合う。だが、
「ぐわぁっ!」
同じ技でぶつかり合えば、確かに向こうの言うとおりだ。
「なぜ認めん?俺たちは“同型”だ。・・・同じプログラムでしか動かん」
「プログラム・・・へっ、あいにく俺の頭にゃ機械は入ってねぇぜ・・・」
「そうだろうな・・・だが、“本能”という名のプログラムは組み込んである。現に
お前は俺と同じ動きしかしない。・・・・お前に勝ち目はありえん」

『試作品001が暴走した!』
『殺すな!取り押さえろ!!』
・・・ちぃっ、またかよ・・・・・・
目の前に見えるのは・・・オレンジ色の水槽・・・・いや、俺がそれに入っているの
か。
ガラス一枚越しに何人かの科学者みたいなのがぶつぶつ言ってやがる。
『やはり、“魔力の移植”がまだ無茶だったのでは?』
『うむ。プログラムに異常をきたしている・・・本来なら、“覚醒”はもっと後のは
ずだ・・・・』
『やはり・・・・・・・・局長、これがこの時期までに起こった脳内反応のグラフで
す・・・』
『・・・・・・自我が目立つな・・・・・・・』
くそ・・・・力が入らねぇ・・・・・・ん?
『局長!大変です、“ルシファー”がこの街に!!』
『なんだと!?・・・・・くっ、仕方が無い!資料をまとめろ!急げ!!』
『グレーはどうしますか!?』
『この水槽から出すのに15分もかかる・・・・放っておけ!どうせ、失敗作だ!
!』
バタバタと研究員達の慌てふためく姿が・・・・愉快だ。
その時はそう思った・・・しかし、誰もいなくなってみて始めて分かった。
俺は、捨てられたのか・・・・・・

う・・・・息が・・・・・
・・・・酸素注入も止められてんだ・・・・考えてみりゃ道理か・・・・・・
くそっ・・・・・最後に・・・野郎の顔・・・ぶん殴ってやりゃ・・・良かっ・・・
・・
ゴボリ・・・
目の前に一つ、大きな泡が浮かんでいくのが見えた。
しかし、次の瞬間にはなんだか流されてるような感じになる。
そして、上から声が落ちてきた。
『大丈夫だ、まだ息がある!フィーナ!おい、フィーナ!・・・・・・』
そうだ・・・・それが、サイガとフィーナに出会うきっかけだったんだ・・・・・
そして俺は・・ルシファーに入って・・・いろんな奴と戦って・・・拳法も覚えたっ
けな・・・・・『鏡の騎士』ディールとも戦って・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・俺は・・・何をしているんだ・・・・・
・・・・・こんな所で・・・こんな奴に・・・・・・・・
・・・・・・・負けてられるか!!!


「・・・・・・・・・・・なぜ、立ち上がる?」
「へっ・・・・お利口さんのお前と違ってよ・・・俺はどうにもあきらめが悪くてな
・・・・」
体が妙に言う事を聞かない・・・・だが、骨は折れてねぇな・・・・
「馬鹿め・・・・何度やろうと結果は同じだ!!」
来た!!
次の瞬間、
メキメキメキ・・・・ゴリ!
「ぐぅぅぅ・・・・!!」
前に出した左腕・・・ひじ辺りが折られたな・・・・
「とうとう狂ったか・・・・そんなもので受けようとするから・・・・・・うっ!
!」
ずきずき痛む左腕で、何かを握る感触。
「へへっ・・・・・捕まえたぜ・・・・・・・」
右手にはめたナックル・・・・ニードルがギラリと光る。
「まさか・・・・左腕を犠牲に・・・・・」
「あぁ・・・・そうだ」
「馬鹿な・・・・狂っている・・・・犠牲を出すなど・・・・狂っているぞ!」
首をわしづかみにされ、息も絶え絶えに目の前の俺がわめき散らす。
ぐっ
右拳を握り締める。
「おめぇにゃ一生分かんねぇだろうな!安いもんだぜ、腕の一本ぐらい!なにしろ・
・・相手が“俺”なんだからなぁっ!!!」
ズダンッ!!
鉄の壁と床を、左頬に穴のあいた俺の頭が転がる。
あぁあ・・・・嫌な光景だな・・・・・
そう思いながら、つかんだ首を離した。
「ふ・・・ふふふ・・・・無駄だよ・・・・・貴様ら・・・・には・・・・とめられ
・・・・・ない・・・・・・」
グチャリ!
かろうじて言葉を発していた俺の頭を踏みつける。
「さて・・・・・そろそろあらかた片付いたらしいな・・・・・」
さっきの爆発のあった辺りが入り口か・・・・・
俺はひじから下の感覚の無い左腕を支えながら歩き出した。

コツリ、コツリ、コツリ・・・・・
暗い廊下に私の足音だけが響いている。
さっきからいくつか角を曲がった。どうやら病院の中心に近づいているようだ。
コツリ、コツリ、コツリ・・・・・
何も聞こえない廊下を、周りに注意を払いながら用心して進む。
そして、私は廊下の奥へたどり着いた。
頑丈な半開きの扉・・・・底から光が漏れてきている。
この奥に・・・・・
私は深い深呼吸をして、その扉を開いた。
バタン!!
な、何だこれは!?
その奥に広がっていた空間は、私の想像と違っていた。
妙に広くて、障害物が無い。
まるで、格闘場のような場所だ。
その時、上のほうから声がした。
「・・・・・・・・誰だ?」
上を見上げると、二階のテラスのような部分から男が覗いている。
「グレーかサイガか、どちらが来るのかと思っていたが・・・・・君は誰だ?」
「私はディール・・・・・喫茶エリュズニルのウエイターです・・・」
「あぁ、例の『鏡の騎士』か。で、こんな所へ何しに?」
私は男を睨み付ける。
「ガルムとシェリルを・・・・返していただこう」
「ははぁ、なるほどなるほど・・・君も彼女を助けにねぇ・・・・」
男の目が緩んだ・・・・笑っているのか?
「まぁ、いい。彼女はあそこだよ」
男の指すほうを見る。
・・・・・・いた。
ガルムがさらわれた時のままの格好で天上から吊り下げられている。
そして下には・・・・・・コンクリートのプール。
その中で、赤い光を放つ液体がドロドロと流れている。
「あの下に流れているものがなんだか分かるかね?・・・溶かした鉄だよ」
・・・・・!!
溶鉱炉・・・・・・・そんな所へ落とされたら・・・・
私は、天上から吊り下げられているガルムに目を戻した。
ぐったりとして・・・気を失っているのか・・・・・
ガルムを見ていると、再び私の心が燃え上がった。
「おぉおぉ・・・そう睨まないでくれたまえ。彼女には別に変な事はしていないよ。
我々は、サジクなどとは違うからな・・・・」
「なら、さっさとガルムを下ろせ!」
「そうはいかん。彼女は我々の計画に必要不可欠なのだ!材料としても、人質として
も!」
「ガルムを改造する気か!」
「・・・・だと言ったら、どうするのかね?」
「貴様を叩き潰す!!」
男がにやりと口をゆがめる。
「それは、無理だなぁ・・・・・・なぁ?ブレード」
私は、男の目線の先を振り返る。
そこには、マントをつけていないブレードが立っていた。
「ブレード!・・・・どういう・・・」
「何も言うな、少年・・・・自分の心配だけしろ」
・・・・・・!!
まさか・・・・・ブレードが・・・・
「さぁ、ブレード、その男を消せ!!」
ブレードがうなずく・・・・
「くっ・・・・ブレード!!貴方は・・・!!」
「自分の心配だけしろと言っただろ」
ゾクリ・・・
後ろから声が聞こえた。
ドン!
背中からの衝撃で、私は吹き飛ばされた。
「ぐぅ・・・・・」
「少年・・・・・・・残念だ。もうここへ来てしまうとは・・・・」
ブレードが私に冷たい目を向けている。
くそう・・・・やるしかないのか!!
私は身構えて、目の前のブレード・・・いや、“敵”に狙いを定める。
この距離なら、そうそう間合いは・・・・
ひゅっ
・・・・・・!!!
10メートル近く離れている場所から、一瞬で目の前に手刀が現れる。
駄目だ!かわしきれない!!
そう思ったが、ブレードの手刀は私の頬をかすめた。
体の反応に任せて突き出された腕をつかみ、足をすくい上げる。
しかし、すぐ横にあったはずの腕も足も、私が手を出した時にはすでに無い。
ぐっ
そのまま腕を捕まれ逆に投げ飛ばされる。
「うわぁっ!!」
まさか・・・・なんてバケモノだ!!
グレーをもはるかに凌駕する超スピード・・・本当に生き物か?
到底勝ち目が無い・・・・・・・
私は宙を舞いながら、目の前にいる敵に対する恐怖で頭が一杯になる。
ひゅっ
「なっ!!」
空中を猛スピードで弾き飛ばされる私の上に、一つの影が現れた。
ズドォン!!
「ぐあっ!!」
空を飛んでいた途中で踏みつけられ、地面に叩きつけられる。
目の前がブレる・・・・!!
そして、ブレている視界に入ってきたのは、ブレードの右拳。
ズドォォォン!!!
今度もまた私の頬をかすめ、すぐ横の床に深々とめり込む。
「シッ!!」
バシッ!
目の前の顔にパンチを繰り出すが、左手で受け止められる。
ギリギリギリ・・・
しばらく力比べが続く・・・だが私はその最中、小さな声を聞いた。
「・・・ディール・・・・・」
それは、ブレードの口から漏れてきていた。

俺は、信じられない光景を見た。
病院の地下、間違いなく奴らの研究施設。
手に大砲と斧を持ち、ここへ突入した直後にそれは起こった。
ガルムさんが吊り下げられている。
下には・・・・溶けた重金属・・・・・
さらにその下で動く黒い影。
「うわぁっ!!」
俺が声のするほうを見ると、黒い布に包まれた男が空高く飛び上がっていた。
そして・・・・
ドボン!!
・・・・・・・・・・!!!!
下にいた男が振り返る。
「さぁ、ブレード。今度はその旧型を殺ってしまえ」
ディールを溶鉱炉へ投げ入れたブレードが、こちらを向いた。


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上記テキストは 2004年11月27日ムサシさま に頂きました。
ありがとうございます。
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