エリュズニールの騎士・外伝〜白い雪と黒い風〜
                                               第八話

ドボン・・・・
耳を疑う音。
まさか・・・・・ブレードがディールを・・・・
「さぁ、ブレード。今度はその旧型を殺ってしまえ」
上のほうからの声を聞いて、ブレードがこちらを向いた。
くそう・・・・大きな誤算だ・・・・・・
まさかブレードが“ゼウス”の仲間だったとは・・・・・
その時、上のほうからまた声が響いた。
「・・・・と、思ったがやっぱり止めておこう」
男が視線を他へそらす。
・・・・・・ブレードが敵である以上・・・・闘えばおそらく勝ち目は無い。
・・・・・それならば!!
ガシャン!
「くたばれ、カール!!」
上にいた男に向かって大砲が火を噴く。
ズドォォォン!!
見事に命中した。
カールをかばった黒い影に。
!?・・・・あの距離から!?
しかも、砲弾を真正面から受けてビクともしていない。
右手から煙が上がっているということは・・・・右手だけで受けたってのか!?
目の前にいるバケモノに恐怖を覚える。
「・・・・・・なんて事をするんだ、サイガ?死んだらどうする・・・・」
男の言葉に、はっと意識を取り戻した。
「うるさい!!初めから殺す気で来たんだ!!」
「おぉおぉ・・・なんと恐ろしい・・・不死身の肉体をくれてやったというのに」
「黙れ!!なんと言われようと、俺は貴様を殺す!!そのために今まで生きてきたん
だからな!!」
「フハハハ・・・・まったくおろかな男だ。ゴミの分際で創造主へたてつくとは・・
・・まるで神に人間が抗うようにな・・・」
「貴様のような愚かな神には抗う方が馬鹿らしいか?」
思いっきり馬鹿にしてやった。
案の定、あいつは俺を睨みつけてくる。
「・・・・ターゼンを倒した事で調子に乗っているのか?奴のような遅れた存在はこ
こではもうお払い箱だったのだぞ?」
「関係無いねぇ。じきに貴様にも送ってやろう・・・地獄行きの片道切符をな!!」
「・・・・・・日々進歩する科学技術に噛み付いた愚かな男よ・・・思い知れ!!」
男が指を鳴らすと、横の通路からゾロゾロと人影が集まってきた。

「うぅぅぅ・・・・・ウガァッ!!!」
どいつもこいつも全員目が血走って息遣いが荒い。
「ほぉ・・・・貴様の遺伝子兵士どもか・・・・」
「個人の能力はダークエルフとほぼ同等・・・・ま、理性が無いのが難点だがな」
23,24・・・・・・ちっ、26体か・・・・・正直、キツいな。
「ま、グレーのように理性が無くとも、貴様のような旧型には十分すぎるだろ?」
男はニヤニヤと見下ろしてきている。
「ルシファーの連中には、貴様のばらばらになった姿を拝ませてやるとしようか!
!」
男の言葉が終らないか否か、26個の影が押し寄せてきた。


これで・・・・・最後だ!!
ズドン!!
大斧の向こうで、分断された男の体が倒れた。
上からは驚愕の目線を向けられている。
「・・・・・まさか全滅とはな・・・理性の無い獣達とはいえ・・・・・・」
「ぐっ・・・・・ハァ、ハァ・・・見たか・・・クソ野郎・・・・」
「だが、貴様の体はもはやボロボロ・・・立っている事もやっとだろう?」
バチバチ・・・
左肩の間接から火花が散っている。
俺の左腕はやつらに壊されてすでに無い。
それどころか、体のいたる所に傷を負いすぎた。
稼働率27%へ低下・・・生命維持に支障あり・・・・・
脳裏に体のデータが走る。
「内蔵されている小型エンジンのおかげでようやく一命は取り留めているが・・・・
もはや闘う事も不可能なのだろう?」
悔しいがその通りだ。
左腕、右指が2,3本、腎臓、肝臓、右のアキレス腱、右頬も無いな・・・
数え切れないほどの体の部品が地面に散らばり、それと対応した部分がまったく動か
ない。
「ふふ・・・しかし、本当に驚いた。まさか、サイボーグと言うものがここまで強
かったとは・・・・奴も少しはマシな研究をしていたようだな」
「フン・・・・マシ?・・・・貴様と同じで狂った研究しかしてねぇよ・・・・」
「そんな体でそれだけ吠えれれば上等だ・・・・ブレード、止めを刺して来い」
ヤバイ!!今来られたら・・・・!!
そう思った。しかし、ブレードは動かない。
「どうした!?私のいう事が聞けないと言うのか!?彼女の運命は私が握っているの
だぞ!?」
「ああ・・・・芝居も終わりだ」
そう言うと、ふわりと飛び降りてきて、俺のパーツを拾い始めた。
・・・・何?
・・・・そういう事だったのか・・・・くそっ、俺はてっきり・・・・
「ブレード!!私に逆らうと、彼女が死ぬ事になるぞ!!」
「やれるものなら、やってみろ・・・・・その次は、お前が死ぬ番だ」
さも悔しそうな顔をして、ガルムさんが下げられているほうを見た。
そして・・・・・・・顔が・・・・変わった?
上手く回らない首を無理やり回して、そちらを見る。
そこには、溶鉱炉と鎖・・・・・・だけか。
ガルムさんの姿が無い。
男がわめき散らす。
「オイ!!お前達、あそこに人が近づくのも気づかなかったのか!!!」
「いえ!誰もあそこへは近づいておりません!」
急いで仲間に確認を取るが、誰も助けに入ってはいないようだ。
とすると・・・・まさか!?
目を凝らしてみると、さらに信じられないものを見た。
コンクリートのプールに・・・・手?
何者かが、溶鉱炉の中から這い出してくる。
一体、何だ!?
俺は、さらに恐怖をかきたてられる。
そして次の瞬間、その恐怖が一瞬にして消えた。
そこから上がってきたのは、ガルムさんを抱えたディールだった。

話は少しさかのぼる。

『ディール・・・こいつを貸してやる』
院内に突入した直後、私はブレードに呼び止められた。
『これを?』
ブレードが差し出しているのは、自分のマント。
『いずれ、役に立つ時が来るだろう。』
私はそれを羽織ってみた。
ふわり・・・・
重さが・・・・・無い。
『それは“黒炎の衣”といってな、溶岩に浸した不死鳥の羽を紡いでつくってある。
燃えもしなければ、切れもせん・・・・お前に貸す』
確か借りた時そう言っていた。
そして今、
「・・・・ディール・・・・」
ブレードが虫の鳴くような声で私の名を呼んだ。
「・・・・私がお前をあの中へ放る・・・・ガルムを助けろ・・・」
「な・・・!?」
無茶苦茶だ・・・・あの中へ放り込まれてどうやって助けるのだ!?
それどころか、入った瞬間に私の体はドロドロに溶けてしまう。
「・・・手短に話すぞ。やつらはガルムの脳髄を欲している・・・」
「ブレード・・・あなたは・・・」
「私があそこへ行けば、やつらはガルムの首から下までを溶かしてしまうだろう・・
・・・私は少し警戒されているらしい」
「それなら・・・・・・」
「あの男を殺せば・・・とも思ったが、どうやら操作は他の所でやっているらしい・
・殺しても意味が無い」
「しかし・・・・その方法は・・・」
「案ずるな・・・・黒炎の衣をまとっていれば、お前の体は火傷すら負わぬ」
ブレードの目・・・ウソは言っていない。
もう一度ガルムのほうを見ると、まだ気を失っているようだ。
・・・・これしかないようだな。
「分かりました・・・・・やってください」
ブレードが微笑んだ。そして、次の瞬間。
ブウンッ!!
「うわぁっ!!」
いきなり乱暴に投げられた。
回転する世界の中、すぐ側に一瞬ガルムの顔が見えたが、すぐに遠ざかっていった。
そして代わりに目に飛び込んできたのは、ぐつぐつと煮えたぎる赤い波。
『お前の体は火傷すら負わぬ』
私がブレードの言葉を疑った瞬間、黒い布が私の体を包み込み・・・
ドボン・・
そのまま水に落ちた感覚があった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・おや?
体が浮いた感じがする。
溶けてない・・・な?
思い切ってマントを少し開いてみる。
私は、煮えたぎる金属の上に浮かんでいた。
さらに思い切ってマントを広げてみる。
すると、それはまるで絨毯のように赤い波の上に広がった。
・・・・・本当・・だったんだ・・・・
『お前の体は火傷すら負わぬ』
ブレード・・・・疑ってごめんなさい。
見上げると、すぐ上にガルムが下がっている。
私はごそごそと懐をまさぐり、一つの物を取り出した。
手の平ほどの小さなブーメラン。
『俺が初めてミスリルを使って作ったものだ。投げれば思い通りの所へ飛んでいき、
必ず戻ってくる・・・これも貸しておく。何かの役に立つだろう・・・・』
・・・・貴方は未来が見えるのですか?
私は、ガルムのすぐ上の鎖めがけて投げつけた。
チンッ
鋭い音がして、ガルムの体が落ちてくる。
ガルムの体を受け止めて、広げた黒い絨毯の上に寝かせる。
そして、噛んでいたブーメランを外した。
・・・・ホントに思い通りだ・・・
それを懐にしまい、ガルムを肩に抱えてコンクリートの壁の近くへ。
足でマントを引っ掛けながら、私は壁の上に這い上がった。

「よいしょ・・・」
溶鉱炉から這い出ると、外はすでに修羅場と化していた。
何十もの体・・・・それが一つ残らず人の形をなしていない。
向こう側で、一つだけ動き回っているものとが見える。
私は急いでプールから降りてそこへ駆け寄った。
「上出来だ、少年」
声をかけられる。
「・・・・・ディー・・ル・・・・よくやった・・・な・・・」
ブレードの向こうで、サイガがうずくまっている。
おそらく改造人間で無ければ死んでいたであろう姿で。
バタン!!
そこへ、フィーナが現れた。
「さぁ、観念しなさい!!・・・・って、あれ?」
目の前の予想外の状況に一瞬と惑っている。
しかし、次の瞬間には目の前にうずくまっている人影に気づいたらしい。
「サイガ!?まさか、アンタがそんなに・・・・・」
「・・・・・・他の同志・・・は?・・・」
「皆負傷したわ・・・・・だけど、死んじゃいないわよ!!」
「そうか・・・それなら安心だ・・・・・うっ・・・フィーナ。早速悪いが、右手の
指だけでも紡いでくれ・・・・・・」
フィーナはサイガの側へ駆け寄り、大急ぎで肉体部分から修復しだした。
これで一安心。
そう思った時、上のほうから声がした。
「は、はははは・・・・まさか・・まさか、こんなことが・・・・・」
男がけらけらと笑っている。
「まさか・・・・・君のようなただの人間にこうまで邪魔されようとは・・・・」
男が下へ下りてきた。
「・・・・だが、私はまだ負けたわけではないぞ!!来い、二人とも!!!」
ひゅっ
二階から二つの影が飛び降りてきた。
「遺伝子兵士!?」
フィーナが声を張り上げる。
「そうとも・・・・しかも、特別製だ」
そう言うと、二人が顔を上げた。
「・・・!?・・・・まさか・・・・そんな・・・・」
片一方は、エルフの男。
その男を見て、フィーナがおびえ出した。
「そうか・・・この男は君の・・・・婚約者・・・・だったかな?」
「ハザル!?」
二人の後ろで白衣の男がニヤニヤと口元をゆがめる。
そして、もう片一方の人影も、顔を上げるにしたがって顔がはっきりしてくる。
白い髪・・・白い肌・・・・・・
「・・・・・・・・・シェリル!!」
「・・・・・・ディール・・・・・・・・・死んで」


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上記テキストは 2004年12月04日ムサシさま に頂きました。
ありがとうございます。
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