C78頒布小冊子:極小版
『あの乳の下品な愛人が友達誘って水着大会に出るらしいのよ』
出展:コルクの日記(http://twitter.com/colk_golem
(NEW 10/08/16)



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8/10

「あの乳の下品な愛人が友達誘って水着大会に出るらしいのよ」

床に敷いた安っぽい水着大会の広告を眺めたまま、
その晩、リタ嬢の口から発せられたその言葉は、
じつにさまざまな感情を内包していたと確信する。何故なら。
我が身の耳がその言葉を受けたまさにそのとき、
まさに木偶たる我が身が、
まさにまぎれもなく竦みあがったからである。
嬢の言にあらわされたそれらいろいろの感情は諸々、
我が身に直接向けられたものでこそなかった。のではあるが。
放置すれば近く、必ずや我が身が害を被るであろうことも
我が身は易く予見できた。
とばっちりとは理由も因果も無い、
無慈悲で無節操で理不尽極まりないものである。
知っているのだ。

嬢の言にある『乳の下品な愛人』とは我が身の主のこと。
嬢の言にある『友達』にもいくらか心当たりがある。
うち一人はあの安っぽい広告を嬢に見せたあの馬鹿者に違いない。
他には、あの娼館の秘書殿あたりか。
ちょっと前に事務所でうちの主と一緒に
水着ばさばさやりながらきゃっきゃ騒いでいた。
で、そうするとおそらくあそこの館長殿も直々に出張ってくる。
娼館『逢魔刻』の精鋭を送り込んでくるだろう。
そういう性分である。
あの暇人はこのテの暇つぶしを絶対に見逃さない。

『大会』と銘打つからには、誰かが優勝したりするのだろう。
けっこう大きな街主催の大会ゆえ、
なにかしら賞品なり出るやもしらん。
―うちの主は負けん気が強いから、これ、
優勝しなかったら面倒なことになるかもしらんなあ―
そんな面倒を後に控えつつも、しかし、
我が身はまず直近の問題から着手せねばならぬのだった。

「水着。あたし。着たことないわ」

リタ嬢がぽつりと言う。こっちガン見で言う。
射竦められながら、髪の毛が蛇の怪物の話を思い出した。
そう。まずはこれをどうにかしなければ。
ほっとくと、確実に拗ねる。
当面の解決策としては適当に水着を買ってやるくらいしか思いつかぬが―

水着。女児用の水着。
どこで売っとったかのう。
いくらくらいで買えるんかのう。
サイズとか、適当でいいんかのう。
わし、どんな顔して買ったらいいんかのう。

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8/14

「ふ、ふふ。あの乳魔獣ドモを相手に、我ながら良く戦ったもんだわ…」

大会後の晩に事務所でビスケッティングなう。
うちの主は壁に2枚目のペナントを追加しながらほくそ笑んでいる。
その様は後ろから見るとすこし気持ち悪いが、言わないでおいた。

あのぺらぺらのペナントが今日の成果だ。
金箔ぎらぎらの安っぽい趣からは想像もつかないが、
ペナント界隈にあってはけっこうな出物であるらしく、
日ごろからこのテの品を愛好しているあの蛇館長殿が
ついさっきまで譲ってくれとすがりついていた。
帰り際の背中とそれを見送るうちの主の目つきから察するに、
まだまだ値はつりあがりそうだ。
安い見た目はさておき、さすがは優勝賞品である。
(賞品提供はこの街の議長。彼はこの街有数のペナント収集家であるそうな)

大会での戦いは凄惨を極めた。
出場者の乳レベルもさることながら、
終盤の選考まで残った猛者が
一人残らず手段を問わぬ獣であった。
戦いの過渡に死者が出てしかるべき場面さえ、幾度もあった。
裏切りに次ぐ裏切り。宿命の父子対決。凄絶な掃討戦。
あらゆる戦局を経た紆余曲折の末。
ヴィザルは娼館『逢魔刻』の放った精鋭セイルと
最後まで競っていた。
最後の最後。
軍配がうちの主の側に上がったのは、
ただ、幸運のみがその要因であったとおもう。

「ふ、ふふふ。いまおもいかえしても。ふふ、ふふふふふ。
 ざまあないわ。あの乳エルフったら。
 針山地獄でのあの最後の顔ったら。ふふふ、ぐふふふふふふふふ」

…今度見舞いに行ってやろう。
ついでにメイコと秘書殿も見舞っておこう。
終盤に散った者らは皆、しばらく立つことさえままならぬはずである。

…さて。策を弄するより先に面倒のひとつが解決したのだが、
問題はまだ残っている。
どうにか店を探し、どうにか資金を捻出し、
どうにか確かめたサイズを店員に告げて
購入したこの水着である。
どんな顔をしてこれを買ったかは、もう忘れた。

この布切れ。
どのタイミングで、
どんな顔で渡したものだろうか。


―追記
 ポロリは無かった。
 軟派極まりない大会であるにもかかわらず、
 ガードはこの上なく強硬であった。
 世の中はままならぬ。





to be continued.

出展:コルクの日記(http://twitter.com/colk_golem